1.セクシュアルハラスメントの被害申告
セクシュアルハラスメント(セクハラ)被害に限ったことではありませんが、ハラスメント被害者が被害申告をする時には、しばしば強い言葉が伴われます。
しかし、こうした強い言葉は、好ましい結果には結び付きにくいように思います。
上司が部下にセクハラをして、部下が被害申告をした場合、組織内でのパワーバランスから会社が上司側について、部下を排除しにかかることがあります。こうした現象は、社長など高位の役職者のセクハラを問題にする時に生じがちです。このような場合、被害申告時に強い言葉が使われていると、「会社を脅した」などとして被害者側にペナルティが科せられることがあります。
また、そこまで極端なケースではなくても、強い言葉が使われていると、会社の側が引いてしまい、「組織防衛上、被害者を排除したい」という方向へと舵を切らせてしまうこともあります。
もちろん、被害相談をしたことによる不利益取扱いは法律上禁止されています(男女雇用機会均等法11条2項)。しかし、上述のような場合、会社は、
「相談をしたこと自体を問題にしているのではない。不適切な言葉を使って、会社を脅したことが問題なのだ」
という議論を展開してきます。
確かに、物事に言い方があることは否定できず、
「加害者を懲戒解雇しなければ、会社内で加害者を殺害する」
というようなことを言ったとすれば、問題になり得ます。
しかし、被害を受けた方が、ある程度強い言葉で会社に対応を求める、加害者の処分を求めることは、被害感情として当然のこともあり、多少のことに一々目くじらを立てられたのでは、相談に伴う不利益取扱いが禁止されている趣旨を没却します。
結局、程度問題に帰着するのですが、被害申告の際に伴う言動は、どのレベルまでなら許容されるのでしょうか?
近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。東京地判令6.9.25労働判例ジャーナル156-26 Velocity Global Japan事件です。
2.Velocity Global Japan事件
本件で被告になったのは、給与支払、従業員の税務、人事に関するアウトソーシング等を目的とする会社です。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を交わし、既存顧客及び新規顧客に対する営業活動を担っていた方です。
セクシュアルハラスメントの被害を訴えたところ、機密情報の使用の有無等を調査するとして有給の出勤停止措置を受けた後、普通解雇されてしまいました(なお、懲戒事由があることが普通解雇事由になっています)。これに対し、解雇の無効を主張して地位確認等を求めるとともに、違法解雇を不法行為と構成したうえで損害賠償を請求する訴えを提起しました。
本件の被告は、解雇理由として、次のような主張を行いました。
(被告の主張)
「原告は、令和4年5月9日から同年10月21日までの間、約200回以上にわたり、被告の顧客であるCのサーバー内の資料を閲覧又はダウンロードした。このうち約70回の閲覧・ダウンロードの対象とされた資料は、原告の業務と関連が薄く、機密性の高いものである。原告は、これらの資料にアクセスし、当該資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとした。」
「この原告の行為は、就業規則49条12号及び13号に該当する懲戒事由である。機密情報が目的外使用された場合の弊害は大きく、原告の行為は違反の程度が非常に重大である。」
「原告は、令和4年9月、Cが米国で開催した会議に参加した。原告は、上司から割増賃金の支払に難色を示されると、同月22日、Cの人事担当者に対し、当該上司からハグをされたなどと主張して、セクシュアルハラスメントの被害を訴えた。さらに、原告は、同月25日及び同月27日、CのCEO及びCCOに対してそれぞれ被害を訴える旨のメールを送信し、その中で『本件を矮小化すれば、会社の信用がさらに毀損される』という脅迫ともとれる発言をした。」
「原告は、令和4年10月6日にCの人事担当者から調査を終了して当該上司に対する制裁措置をとったとの報告を受けたが、処分の結果に不満を抱き、同月16日、Cに対し、被害を訴えたことで報復措置を受けたなどと言い出した上、被害を警察に届け出たなどと告げて調査済みの問題を蒸し返し、さらに、被害申告を受けて報告ラインが変更されたにもかかわらず、CCOに対して営業担当者としての売上目標に関する長文のメールを送り付け、Cの業務を混乱させた。」
「これらの原告の行為は、就業規則49条11号、14号及び23号に該当する懲戒事由である。米国においてはセクシュアルハラスメントの被害を受けた旨を公表された場合の損害賠償責任や信用棄損のリスクが大きく、原告の行為はCの規律を著しく乱すものと評価すべきである。」
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥し、解雇は無効だと判示しました。
(裁判所の判断)
「原告は、令和4年9月、Cが米国で開催した会議に参加した。原告は、同月22日、Cの人事担当者に対し、上司からハグをされたなどと主張して、セクシュアルハラスメントの被害を訴えた。原告は、同月25日及び同月27日、CのCEO及びCCOに対してそれぞれ被害を訴える旨のメールを送信し、その中で『この問題を軽視することは企業の信用にさらなる損害をもたらす可能性がある』旨を記載した(・・・なお、これらのメールは英語で書かれている。)。」
「原告は、令和4年10月6日、Cの人事担当者から、原告の被害申告を受けて当該上司に対する制裁措置をとり、原告の直属の上司を変更し、調査を終了したとの報告を受けた。原告は、同月16日、Cの人事担当者に対し、報復措置として、顧客を減らされ、売上目標を引上げられていたことに気付いたとして改善を求める旨のメールを送信し、同月20日、CのCCOに対し、自身の売上目標について詳細な説明を求める旨のメールを送信した。・・・」
(中略)
「被告は、本件解雇の事由として、原告が被告の顧客であるCのサーバー内の資料にアクセスし、当該資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたとして、この原告の行為は就業規則49条12号及び13号に該当する懲戒事由であると主張する。」
「しかし、原告がアクセスした資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたと認めるに足りる証拠はない。」
(中略)
「被告は、本件解雇の事由として、原告がCにおいてセクシュアルハラスメントの被害を訴える際に、CEO及びCCOに対して脅迫ともとれる文言を含むメールを送信し、さらに、調査終了後も問題を蒸し返し、CCOに対して営業担当者としての売上目標に関する長文のメールを送り付けるなどして、Cの業務を混乱させたとして、これらの原告の行為は就業規則49条11号、14号及び23号に該当する懲戒事由であると主張する。」
「しかし、被告が問題視するメールの文言は、『この問題を軽視することは企業の信用にさらなる損害をもたらす可能性がある』というものであって・・・、直ちに脅迫といえるものではなく、これに続けて『Cがすべてのマネージャーにこのような出来事が再び起こらないようにするためのトレーニングを行ってくれることを期待しています』との記載があることも踏まえると,再発防止を含めてハラスメントに対する厳正な対処を求める趣旨と読むことができる。そして、その他の原告の言動についても、セクシュアルハラスメントの被害を訴え、報復措置の疑念の解消を求めるものとして、不当なものとはいえない。」
「被告は、原告がセクシュアルハラスメントの被害を訴えたのは原告に対する割増賃金の支払に上司が同意しなかったという不当な動機に基づくものであり、調査終了後に当該上司の解雇をもくろんで報復を受けたとの根拠薄弱な主張を繰り返した旨を主張するが、これらの事実を認めるに足りる証拠はない。」
(中略)
「以上のとおり、原告の各行為が就業規則49条11号、12号、13号、14号又は23号に該当するとは認められないから、本件解雇は、解雇事由がなく、無効である。」
3.この問題を軽視することは企業の信用を毀損する程度のことは問題ない
上述のとおり、裁判所は、
「この問題を軽視することは企業の信用にさらなる損害をもたらす可能性がある」
程度のことは、直ちに脅迫といえるものではないと判示しました。
問題ないとの判断には、
「Cがすべてのマネージャーにこのような出来事が再び起こらないようにするためのトレーニングを行ってくれることを期待しています」
との記載も影響しているようですが、この程度の言葉であれば、使っても問題はなさそうです。
冒頭で指摘したとおり、強い言葉は獲得目標の達成に結びつくことが少ないのであまり推奨はしないのですが、会社に対する被害申告の文言を考えるにあたり、また、言葉遣いを理由とする不利益処分に対抗して行くにあたり、実務上参考になります。
