作業服への着替え等の時間に労働時間性が認められた例

1.更衣時間の労働時間性

 制服や作業服への更衣時間の労働時間該当性については、一般に、次のとおり理解されています。

「労働者が就業を命じられた業務を行う前段階の・・・作業服・作業靴への着替え・履替えなどの業務の準備行為は、労務提供そのものではなく、労務提供の準備行為であるから、基本的にはそれが使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるものでない限り労働時間と解することはできない。」(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改訂版、令3〕155頁参照)

 つまり、

原則的には労働時間には該当しない、

例外的に、それが使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる場合に限り、労働時間に該当する、

ということです。

 制服への更衣時間は、業務との結びついているイメージを持ちやすいからか、法律相談に来る方の中には、当然、労働時間として認められるはずだと考えている方が少なくありません。

 確かに、更衣時間に労働時間性を認めた公表裁判例は相当数あります。しかし、原則的に労働時間に該当しないとされていることとの関係で、労働時間性が否定されている公表裁判例も相当数あります。要するに、更衣時間の労働時間性の立証のハードルを乗り越えることは、それほど簡単ではありません。

 このような状況の中、近時公刊された判例集に、作業服への着替え時間に労働時間性が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.9.25労働判例ジャーナル156-30 日都産業事件です。

2.日都産業事件

 本件で被告になったのは、オフィスビル等の清掃事業を営む株式会社です。

 令和元年11月1日に被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、時給1100円で清掃業務に従事していた方(A)の相続人です。被告のAに対する解雇は無効だと主張し、死亡日までのバックペイや、未払いの時間外勤務手当等(残業代)の支払を求めて提訴したのが本件です。

 時間外勤務手当等(残業代)請求との関係では、タイムカードを打刻してから所定始業時刻に至るまでの間の着替え等の時間に労働時間性が認められるか否かが問題となりました。

 この点についての当事者双方の主張は、次のとおりでした。

(原告の主張)

「Aは、被告の指示により、所定の始業時刻前に出勤してタイムカードに打刻してから指定の作業服に着替え、清掃作業を行った後、作業服から私服に着替えてからタイムカードに打刻していた。そのため、実労働時間はタイムカード記載のとおりであり、別紙1の始業時刻から終業時刻までは全て実労働時間である。」

(被告の主張)

「被告は、Aに対し、時間外労働を指示していない。着替え等の準備行為の所要時間は10分程度で足りるから、タイムカードの記載のうち、少なくとも所定労働時間の前後10分を超える部分は実労働時間ではない。」

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、打刻以降の着替え等の時間に労働時間性を認めました。

(裁判所の判断)

タイムカード上の始業時刻及び終業時刻・・・並びに弁論の全趣旨によれば、Aは、被告の指示により、出勤後に男女兼用のロッカールームで指定の作業服に着替え、用具を準備した上で、所定の始業時刻に清掃作業を始め、用具の片づけ等を含む清掃作業を全て終えた後に私服に着替えて退勤していたと認められる。

そして、Aは、おおむね所定の始業時刻の20分から40分程度前に出勤し、所定の終業時刻後15分程度の間に退勤しており、男性の着替え中はロッカールームに入れないことや清掃作業の対象であるトイレの利用状況によって想定以上の時間を要する日もあると考えられること等を考慮すると、この出勤・退勤の時刻は前記の被告の指示に対応したものといえる。そうすると、基本的に、タイムカード上の始業時刻から終業時刻までの間は、実労働時間であると認められる。

「もっとも、Aは令和元年12月25日のみ所定の始業時刻の約1時間20分前に出勤しており、これが被告の指示に対応したものとは認められないから、同日は午前7時40分以降に限り実労働時間と認める。」

「これに対して、被告は、着替え等の準備行為の所要時間は10分程度で足りるから、タイムカードの記載のうち、少なくとも所定労働時間の前後10分を超える部分は実労働時間ではないと主張する。そして、被告は、ロッカールームの他にも着替える場所があり、清掃作業は着替え等を含めてもそれほど時間を要しないとも主張する。」

「しかし、被告が主張する更衣室の具体的な場所は明らかでなく、清掃員の着替えのために複数の場所が確保されていたとも考え難い。また、所定労働時間は着替え等の時間を考慮せずに設定されているとみられるから、清掃作業の所要時間がそれと比べて大幅に短いとは考え難い。したがって、これらの被告の主張は採用することができない。」

3.準備行為であっても指示に基づいていれば労働時間にあたるのだろう

 着替え時間の労働時間性を主張すると、しばしば「準備行為だから・・・」という反論が返ってくることがあります。しかし、準備行為だろうが、使用者の指示に基づいているのかという部分が大事で、当該準備行為を使用者が指示していれば、その作業をしている時間は、基本的には労働時間と言っても差し支えないように思います。

 着替え時間や準備時間は、存外、揉める例が多く、裁判所の判断は、実務上参考になります。