合理的期待の内容-同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないのか?-警戒すべき地裁裁判例が高裁で是正された例

1.雇止め法理-合理的期待

 労働契約法上、

「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる)

場合、有期労働契約者からの契約更新の申込みに対し、使用者は、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められなければ、申込みを拒絶できず、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したことを擬制されます(労働契約法19条2号)。

 それでは、ここで言う「契約更新」に向けられた「期待」は、同一の労働条件で更新されていることへの期待でなければならないのでしょうか?

 この問題は、「期待」の基準時が「契約期間の満了時」であることと関係します。

 有期労働契約が締結されてから、契約期間の満了時に至るまでの間には、様々なことが生じます。例えば、勤務成績が振るわなかったり、不祥事を起こしたりして、従前と同一条件での契約の更新を望めなくなることがあります。また、労働者自身に帰責性がなかったとしても、経営環境の変化や、会社合併などの外部的要因によって、同一条件での契約の更新が難しくなることもあります。

 こうした場合、

従前と同一の条件での労働契約の更新を期待することはできないものの、

切り下げられた条件のもとでの労働条件の更新であれば期待可能

という場合が生じます。

 このような場合、労働契約法19条2号に規定されている合理的期待は認められるのでしょうか?

 以前、

合理的期待の内容-同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないのか?-警戒すべき裁判例の出現 – 弁護士 師子角允彬のブログ

という記事の中で、最高裁判例の趣旨に反し、契約更新に向けられた期待は同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないと判示した裁判例を紹介しました(東京地判令6.4.25労働判例1318-27 東光高岳事件)。

 相当に問題のある判決だと思っていたのですが、近時公刊された判例集に、これを是正した控訴審裁判例が掲載されていました。東京高裁令6.10.17労働経済判例速報2571-36 東光高岳事件です。

2.東光高岳事件(控訴審)

 本件で原告(控訴人)になったのは、「ユーククエスト株式会社」(ユークエスト)という会社で勤務していた方です。定年後再雇用契約として、

期間 令和2年10月1日~令和3年9月30日

勤務日 週4日

賃金月額 基本賃金30万3600円

の有期労働契約を締結しました(本件契約1)。

 契約期間の満了が迫ってきた令和3年7月1日、原告は、ユークエストに対し、本件契約1と同一の労働条件で労働契約を更新する申込みをしました。

 しかし、令和3年7月30日、ユークレストと被告(被控訴人)との間で、被告がユークレストを吸収合併する合意が成立しました。

 吸収合併に伴い定年後再雇用契約の内容を被告に合わせる必要が生じたことから、ユークレストは、

期間 令和3年10月1日~令和4年4月30日

勤務日 週5日

基本賃金 月額25万6000円

とする契約か(本件提案1)、

期間 令和3年10月1日~令和7年4月30日

勤務日 週4日

基本賃金 時間額1200円

とする契約(本件提案2)

のいずれかを選択することを提案しました。

 その後、原告とユークレスト・被告との間で労働条件の調整が行われたのですが、結局、合意に至らず、

本件契約1と同一内容での労働契約の更新を主張する原告と、

更新拒絶により労働契約が解消されるに至ったと主張する被告

との間で紛争が生じ、原告は地位確認等を求める訴えを提起しました。

 本件では労働契約法19条の適用のために必要な合理的期待が、

同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないのか、

同一の労働条件ではなくても、ただ契約が更新されることへの期待があれば十分なのか

が問題になりました。

 原審は

同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならない

として原告の請求を棄却しました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です。

 控訴審裁判所も結論自体は請求棄却なのですが、流石に原審の上記判断を問題だと思たのか、次のとおり判示しました。

(裁判所の判断)

「労契法19条2号所定の『当該有期労働契約が更新されるものと期待すること』について、控訴人は当該有期労働契約の再締結への期待であり、それが同一の労働条件でなされるか否かを問わない旨主張し、他方、被控訴人は、従前の労働条件の有期労働契約が更新されるものと期待することである旨主張する。」

「この点、労契法19条2号所定の『当該有期労働契約が更新されるものと期待すること』とは、同条の文言等に照らして、従前の労働契約と同一の労働条件で当該有期労働契約が更新されるものと期待することに限定されず、従前の労働契約から労働条件が変更されたうえで当該有期労働契約が更新されるものと期待することも含まれると解される。」

3.問題のある地裁裁判例が是正された

 労働契約法19条2号は判例法理を成文化したものであるのに、成文化したが故に労働者が保護される範囲が狭まるというのは、どのように考えても合理性がないように思います。

 原審の判断は問題だと思っていましたが、無事、高裁で是正されたようです。