1.解雇が無効であることをどのように説得するのか?
労働契約法16条は、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と規定しています。
しかし、
どのようなことを言えば、合理的な理由がないことになるのか、
どのようなことを言えば、社会通念上相当であると認められないことになるのか、
については、それほど明確に意識されているわけではありません。
よく、解雇するにあたっては、事前の注意、指導のプロセスが必要だと言われますが、近時公刊された判例集に、事前の注意、指導の欠如を解雇無効の結論に繋げてゆく典型的なパターンを示した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、
東京地判令6.7.24労働判例ジャーナル155-46 テレシスネットワーク事件です。
2.テレシスネットワーク事件
本件で被告になったのは、システム開発・運用サービスなどを業とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で、期間の定めのない労働契約を締結し、被告のデジタルコンテンツ事業本部で働いていた方です。被告から本採用拒否されたことを受け、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
この事件の裁判所は、次のとおり述べて、解雇の有効性を否定しました。
(裁判所の判断)
「前提事実・・・によると、被告は、本件労働契約で定められた試用期間中に、本件労働契約で留保された解約権を行使して、原告を解雇したものと認められる(本件解雇)。このような留保解約権の行使は、当該解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当である(最高裁判所昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。」
「認定事実・・・によると、本件ヒアリングにおいて、原告の勤務態度について、
〔1〕電話対応に稚拙な点があった旨、
〔2〕個別に連絡するのではなく、チャットルームで共有してほしかった旨、
〔3〕顧客対応がうまくできず、落ち込んでいた旨、
〔4〕メールを誤送信したことがあった旨、
〔5〕仕事に対する意欲又は積極性が欠けていた旨、
〔6〕間違ったものを作ったときのスタンスが謙虚でなかった旨、
〔7〕仕事の内容が雑で、注意力が欠けていた旨等の意見があったことが認められる。」
「しかし、
〔1〕及び〔4〕は、単純なミスにすぎず、その頻度や回数は明らかでないものの、これによって業務に支障が生じた事実までは認められない。
〔2〕は、連絡方法について不満を述べるものにすぎず、個別に同僚に連絡したことが不適切とまではいえない。
〔3〕については、原告は被告に入社してから間がなく・・・、業務に慣れていない面があったことに照らすと、これをもって従業員としての適性を欠くとまではいえない。
〔5〕、〔6〕及び〔7〕については、回答者の主観的評価を述べるものにとどまり、これを裏付ける客観的証拠は見当たらない。」
「被告は、上司による指導がなされても、原告の勤務態度は一向に改善しなかった旨主張するが、原告が上司から受けた注意、指導の内容、回数及び頻度は明らかでなく、直ちに採用できない。」
「以上によれば、本件ヒアリングで指摘されている事項は、いずれも単純なミスによるものか、適切な注意、指導による改善が期待できるものであって、これらをもって留保解約権行使の客観的合理的理由があるとはいえない。その他、本件全証拠に照らしても、留保解約権行使の客観的合理的理由があるといえるような事情を認めることはできない。」
「したがって、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとは認められず、無効である。」
3.事前の注意・指導の欠如(具体的事情が不明)+注意指導による改善可能性
以上のとおり、裁判所は、
注意、指導の内容、回数及び頻度が不明、
注意、指導による改善が期待できる、
との論理で、解雇(留保解約権の行使)の効力を否定しました。
こうした論理は、準備書面を書いて行く指標となるもので、実務上参考になります。
