アイドルになるという夢を持っている限り、勤務態度の改善は見込めないのか?

1.○○という夢を持っている限り~

 会社にもよりますが、従業員の「○○という夢」に対し、好意的でない視線を注がれることがあります。

 我々の業界との関係だと、例えば、司法試験です。

 当該従業員が司法試験に合格し、法律事務所に就職するため退職されると困るのか、あの手、この手を使って、受験勉強を妨害するといったようにです。それでも勉強を辞めないと、退職勧奨や解雇を通告されることもあります。

 おそらく、会社の発想としては、

いずれ辞める人間を育成しても意味がない、

他所に行くのか、自社で働くのかはっきりして欲しい、

他所に行くつもりなら、もう辞めて欲しい、

という感じなのではないかと思います。

 しかし、労働契約は、単なる約束事にすぎず、御恩と奉公のような主従関係ではありません。就職した以上、他の夢は諦め、その会社に人生を捧げよと滅私奉公を求めるのは、無茶というものです。

 近時公刊された判例集にも、アイドルになる夢を持っていた従業員との関係で、

「アイドルになるという夢を持っている限り、勤務態度の改善は見込めない」

という会社側の主張が排斥された裁判例が掲載されていました。東京地判令6.7.24労働判例ジャーナル155-46 テレシスネットワーク事件です。

2.テレシスネットワーク事件

 本件で被告になったのは、システム開発・運用サービスなどを業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で、期間の定めのない労働契約を締結し、被告のデジタルコンテンツ事業本部で働いていた方です。被告から本採用拒否されたことを受け、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件の独特なところは、被告の主張です。

 被告は解雇事由として、次のような主張を展開しました。

(被告の主張)

「原告は、令和4年4月1日、被告に入社して以降、電話対応の不備やメールの誤送信など単純なミスが多く、その他担当業務においても多数の不備がみられ、上司による指導がなされても一向に改善しなかった。」

「そんな中、原告は、自身のSNSにおいて、アイドルになるという夢を持っていたが、親の反対により諦めて、被告に入社した旨、夢を諦めたことを後悔している旨、近いうちに退職を決意する旨等を投稿した。」

「被告は、原告の不良な勤務態度の原因は、原告がアイドルになるという夢を諦められない点にあり、そのような気持ちを持っている限り、勤務態度の改善は見込めないと判断した。」

「したがって、原告は、本件就業規則13条1項2号、7号、24条5号に該当し、本件解雇は有効である。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、解雇の有効性を否定しました。

(裁判所の判断)

・検討

「前提事実・・・によると、被告は、本件労働契約で定められた試用期間中に、本件労働契約で留保された解約権を行使して、原告を解雇したものと認められる(本件解雇)。このような留保解約権の行使は、当該解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当である(最高裁判所昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。」

「認定事実・・・によると、本件ヒアリングにおいて、原告の勤務態度について、

〔1〕電話対応に稚拙な点があった旨、

〔2〕個別に連絡するのではなく、チャットルームで共有してほしかった旨、

〔3〕顧客対応がうまくできず、落ち込んでいた旨、

〔4〕メールを誤送信したことがあった旨、

〔5〕仕事に対する意欲又は積極性が欠けていた旨、

〔6〕間違ったものを作ったときのスタンスが謙虚でなかった旨、

〔7〕仕事の内容が雑で、注意力が欠けていた旨等の意見があったことが認められる。」

「しかし、

〔1〕及び〔4〕は、単純なミスにすぎず、その頻度や回数は明らかでないものの、これによって業務に支障が生じた事実までは認められない。

〔2〕は、連絡方法について不満を述べるものにすぎず、個別に同僚に連絡したことが不適切とまではいえない。

〔3〕については、原告は被告に入社してから間がなく(認定事実ア)、業務に慣れていない面があったことに照らすと、これをもって従業員としての適性を欠くとまではいえない。

〔5〕、〔6〕及び〔7〕については、回答者の主観的評価を述べるものにとどまり、これを裏付ける客観的証拠は見当たらない。」

「被告は、上司による指導がなされても、原告の勤務態度は一向に改善しなかった旨主張するが、原告が上司から受けた注意、指導の内容、回数及び頻度は明らかでなく、直ちに採用できない。」

「以上によれば、本件ヒアリングで指摘されている事項は、いずれも単純なミスによるものか、適切な注意、指導による改善が期待できるものであって、これらをもって留保解約権行使の客観的合理的理由があるとはいえない。その他、本件全証拠に照らしても、留保解約権行使の客観的合理的理由があるといえるような事情を認めることはできない。」

「したがって、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとは認められず、無効である。」

・被告の主張に対する補足説明

被告は、原告の不良な勤務態度の原因は、原告がアイドルになるという夢を諦められない点にあり、そのような気持ちを持っている限り、勤務態度の改善は見込めないと判断した旨主張する。

しかし,前記・・・で説示したところによると、原告の勤務態度は、単純なミスや業務に不慣れな点があっても、不良とまではいえない。その点を措くとしても、原告がアイドルになるという夢を持っている限り、勤務態度の改善は見込めないというのは、根拠のない憶測にすぎず、かえって、認定事実オによると、原告は、Cに対し、アイドルの夢は諦めて被告で働き続けたい旨伝え、就労の意欲を示していることに照らすと、勤務態度の改善が見込めないということはできず、被告の主張は採用できない。

被告は、原告が芸能人養成学校に復帰したことを指摘するが、本件解雇により被告での就労を拒否された後の出来事であり、上記判断を左右しない。

3.他に夢を持っている限り勤務態度の改善は見込めないとの論理には無理がある

 昨今の経済情勢からすると、従業員に一生涯の雇用を保障できる会社の方は多くないように思います。こうした状況の中、従業員に対し、

「○○になるという夢を諦められないなら、勤務態度の改善は望めない」

として一方的な忠誠を求めるのは、やはり行き過ぎであるように思われます。

 他に夢があろうが、いきなり仕事を解雇されると、現実問題、労働者は生活に困窮します。こうした理由で解雇されてしまった方は、法的措置をとることを検討してみても良いかも知れません。