1.違法ではないが不当な行為
人の行為には、
適法かつ正当な行為、
違法かつ不当な行為、
のほか、
不当ではあるが、違法とまではいえない行為
があります。
この
不当ではあるが違法とまではいえない行為
の領域は案外広く、ハラスメントを理由に損害賠償を請求すると、これに該当するとして請求が認められないことが少なくありません。
しかし、この領域に該当する行為を主張することに意味がないかというと、おそらくそういうわけではないのだと思います。相手方の行為の一部にでも違法性が認められる場合、判決にあたり考慮される可能性があります。ここ数日紹介している、名古屋高判例6.10.3労働判例ジャーナル155-34 国立大学法人三重大学事件は、この点でも参考になる判断を示しています。
2.国立大学法人三重大学事件
本件で原告になったのは、三重大学大学院工学研究科の助教として採用され、准教授として勤務していた方です。工学研究科の教授らから種々のハラスメント行為を受け、採用以降、不当な地位に置かれ続け、研究者及び教育者として適切な環境を与えられず、その人格を著しく傷つけられたなどと主張し、慰謝料等を請求する訴えを提起しました。原審が原告の請求を棄却したことを受け、原告側が控訴したのが本件です。
原告(控訴人)が問題にした行為は多岐に渡ります。
その中には違法性が認められたものもあれば、認められなかったものもあります。
注目すべきは、認められなかったものの中に、次のような特徴的な判断が示されているものがあることです。
(裁判所の判断)
「控訴人は、平成21年度以降、三重県と被控訴人大学の共同出資によって被控訴人大学内に設置された組織であるd(b。現在のd)の室員として活動し、また、平成22年度にdにより開講されることとなった『e』(e)の運営委員会(塾長D、副塾長G)の委員を務め、eの開講後には、「h」の指導員を担当して、学生の研究指導に当たっていた。」
「控訴人は、eの事務局から、平成22年11月16日、メールで、平成23年度のカリキュラムに関する協力の要請等を打診され(なお、同様のメールは、控訴人以外の教職員らに対しても同時に送信された。)、引き続いて上記委員(指導員)を担当する意向であった。しかし、eにおいて中心的に活動していたLと、控訴人との間で、案件の処理等をめぐって対立が生じたことや、上記運営委員会における控訴人の出席率が悪かったことから、上記運営委員会の執行部であるD、G及びLが協議した結果、翌年度には控訴人に対して上記委員を嘱託しないことを決め、塾長であるDが控訴人に対し、平成22年11月、特に理由を説明することなく、「来年からは、d・eに来なくていい。」などと告げた。その結果、控訴人は、その意向に反して、平成23年度以降、上記室員及び委員を務めなかった。もっとも、上記室員及び委員は、当時、任期に関する明確な定めのある役職ではなかった。」
「eは、平成25年頃、過去5年間の活動実績等を取りまとめた」「『○○○○○○○○○○』と題する報告書(最終報告書)を作成したが、平成22年度から平成25年度までの各年度の担当教員一覧として、工学研究科の教員としてD、K、L及びNが記載されている一方で、控訴人は、『h』の指導員を担当した平成22年度についても記載されていなかった。」
(中略)
控訴人は、C、D及びGが、eから控訴人を一方的に解任し、控訴人の業績を最終報告書の記載から故意に排除した旨主張する。
しかし、認定事実(2)ウによれば、控訴人は、平成22年度の終了をもって、eの委員から一方的に外されたものの、同委員は任期に関する明確な定めのある地位でなく、少なくとも控訴人がその任期の中途で解任されたわけではなかった上、控訴人が上記委員から外された原因は、運営委員会における控訴人の出席率が悪かったことも一因であることが認められる。加えて、認定事実(2)ウによれば、控訴人は、平成22年度に「h」の指導員を担当しながら、最終報告書において担当教員として記載されていなかったことが認められるものの、Gは、原審における証人尋問で、「それぞれの授業、防災塾の授業は、多岐にわたっていましたので、各事業で中心となってやっていただいたかた、それから最終年度まできちんと続けていただいたかたを中心に、主に関わっていただいたかたを中心に記載をしたということでした。」と証言しており(証人調書11~12頁)、工学研究科の教員として氏名が記載されているD、K、L及びNは、いずれも最終報告書上の各年度又は少なくとも最終年度(平成25年度)に記載されていること(甲11)は、上記証言に沿うものであるともいえる。これらの説示に照らせば、控訴人が担当教員として記載されなかったことは、直ちに不法行為を構成し、国家賠償法1条1項の適用上違法なものと認めることはできない。ただし、上記運営委員会への出席義務があるか否かは明らかでなく、控訴人以外にも欠席していた委員がいたのではないかと考えられることからすると、控訴人に対して継続的に一連のハラスメント行為が行われていた中で生じた事実として評価することができる。」
・Dによる公募に関する圧力
「認定事実・・・のとおり、建築学専攻は、Nの後任人事につき、公募によることを計画し、予備選考委員会において、平成30年公募の要領を内定したこと、同要領においては、『専門分野:コンクリート構造・材料研究分野およびこれに関連する分野』などとされていたこと、控訴人は、同年5月31日、Dと話合いをし、Dから、『今回は応募しないでほしい。たとえ応募しても、募集と専門が違うので無理である。』などと言われたことが認められる。」
「控訴人は、構造系における准教授は全員助教から昇進していたにもかかわらず、建築学専攻の教授会議が、構造系の准教授であったNの後任人事を、専門分野が控訴人と異なる要領の公募によることを計画した上、Dが、工学研究科長としての立場を利用し、控訴人に対して公募要領に該当しないので応募しないよう不当な圧力をかける発言をしたものであり、平成30年公募は控訴人を排除する目的に基づくものであるなどと主張する。」
「しかし、認定事実・・・のとおり、被控訴人大学においては、平成23年度以降、優秀な人材を確保するために公募制や任期制の取組を推進することが年間計画として謳われ、平成28年10月1日に学長裁定により策定された基本方針により、教職員の人事については『原則公募を継続する。』とされていたものであって、平成30年6月当時、構造系における准教授が全員助教から昇進していたことを認めるに足りる証拠はない(控訴人は、上記当時、建築学専攻の准教授は、実態として、公募に加え、内部の昇進が通常の方法として採用されていたなどと主張するが、直ちに上記説示を左右しない。)。平成30年公募の公募要領に係る専門分野は、控訴人のそれ(木造)と異なるコンクリートとされていたが、コンクリートを専門分野としていたNの後任人事であることに照らせば、直ちに不合理であるとはいえない。そうすると、平成30年公募が控訴人を排除する目的に基づくものであるとまで認めることはできない。」
「また、前記・・・認定のDの発言は、控訴人の求めに応じて行われた話合いの席上におけるものであり、上記のとおり公募要領に係る専門分野が控訴人のそれと異なることを踏まえ、控訴人に対して一層の熟慮を促す趣旨のものであったと考えることもできるのであり、Dが当時工学研究科長の地位にあったことを斟酌しても、一概に控訴人に対する不当な圧力であると評価することまではできず、Dの上記発言から、平成30年公募が上記目的に基づくものであると直ちに認定することはできない。」
「そうすると、平成30年公募やDの上記発言をもって、控訴人の主張する不法行為ないし国家賠償法1条1項の適用上の違法行為が成立すると認めることはできない。ただし、Dが、本件同意書に記載された任期が近づきつつあった平成24年7月頃に、控訴人に対して高等専門学校の助教の募集要領に関する資料を渡していること、後に控訴人が准教授に昇進していることからすると、Dの上記発言が控訴人を排除する目的に基づくものであった可能性も直ちに否定することができないのであって、控訴人の上記主張も十分理解できるものであり、違法とまでは認められないものの、少なくともDが控訴人に対して上記資料を渡したことについては、控訴人に対して継続的に一連のハラスメント行為が行われていた中で生じた事実として評価することができる。」
3.どのように評価されたのかは不分明ではあるが・・・
裁判所は違法とまでは言えない行為についても、
「控訴人に対して継続的に一連のハラスメント行為が行われていた中で生じた事実として評価することができる」
という考えを示しました。
判決文からは、どこでどのように評価されたのかが今一分かりにくいのですが、少なくともハラスメント被害者に不利に斟酌されているようには見えません。何某かの形で裁判官の心証に有利には作用しているのだと思います。
実務上、広範に存在している
不当だけれども違法とまではいえない行為
の活用方法を考えて行くにあたり、裁判所の判断は参考になります。
