大学教員に指導する大学院生に割り当てるための研究室を割り当てないことが不法行為を構成するとされた例

1.教授の自由

 大学教員の方の労働事件を取り扱って行くにあたっては、しばしば教授の自由との関係が問題になります。

 教授の自由は学問の自由(憲法23条)の構成要素の一つで、その重要性は労働事件においても十分に意識されています。例えば、東京地判令2.10.15労働判例1252-56 学校法人国士舘ほか事件は、

「大学の専任教員にとって、授業を担当することは、広く知識を授け、深く専門の学問を教授研究するために不可欠であるといえるから、大学の専任教員にとっての授業担当は、労働契約上の義務にとどまらず、権利でもあると解するのが相当である。」

と大学教員が授業を通じて学生に教授することに権利性を認めています。

大学教授の授業担当外しが違法とされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ

 教授の自由との関係では、上記のように授業外しとの関係で問題になることが多かったのですが、近時公刊された判例集に、興味深い判断がされた裁判例が掲載されていました。ここ数日紹介させて頂いている、名古屋高判例6.10.3労働判例ジャーナル155-34 国立大学法人三重大学事件です。何が興味深いのかというと、大学教員に院生用の研究室を割り当てないことが違法だとされたことです。

2.国立大学法人三重大学事件

 本件で原告になったのは、三重大学大学院工学研究科の助教として採用され、准教授として勤務していた方です。工学研究科の教授らから種々のハラスメント行為を受け、採用以降、不当な地位に置かれ続け、研究者及び教育者として適切な環境を与えられず、その人格を著しく傷つけられたなどと主張し、慰謝料等を請求する訴えを提起しました。原審が原告の請求を棄却したことを受け、原告側が控訴したのが本件です。

 原告(控訴人)が問題にした行為は多岐に渡りますが、その中の一つに、

大学院生用の研究室の割当てを受けられなかったこと

がありました。

 裁判所は、次のとおり述べて、その違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「控訴人は、准教授に昇進した後も、院生用研究室の割当てを受けていなかった。上記割当てを希望していた控訴人は、令和2年9月15日、上記割当ての件を相談していたJと共に、F(環境設備系の教授で当時の建築学専攻長)に対し、上記割当てを要求した。」

「当時、建築学専攻においては、院生用研究室の割当てに関する内規等はなく、かねてより、教員個人ごとにではなく各系ごとに院生用研究室が割り当てられるという運用になっていたが、その割当ては、各系の研究分野の特色等を理由に、教員一人当たりの面積としてみると、各系間に相当程度の較差があった。Fは、上記運用に加え、特に構造系において院生用研究室が逼迫しているなどの実情もないと考えていたため、両者の間で控訴人の要求する割当ての必要性や是非等をめぐって意見が対立し、Fが控訴人の上記要求に応じることなく物別れに終わり、また、Fが上記割当ての件を建築学専攻内で協議するための場を手配することもなかった。」

「控訴人は、Fから期待するような回答、対応を得られなかったため、令和2年9月25日以降、Gに対し、自ら又はJを通じて、上記割当ての件を相談し(なお、控訴人とGは、当時、総合工学コースの講義を共同担当していた。)、Gは控訴人の上記要求に一定の理解を示し、互いに院生用研究室の配分案を示すなどして協議したが、Gは、環境設備系を含めた教室会議で議論するのが相当であるし、そのための資料が必要であるなどと考えて、控訴人に対し、同月30日に行われた協議の席上で、『この件は教授だけで話し合うので、文書で要望書を提出するように。』、『A先生の書いてくれた文を見ながら考える。』などと発言し、そのような文書提出の前例を知らなかった控訴人から『どういう文を書けばいいんですか。』などと尋ねられると、『そういうのは自分で考えてごらんよ、大人なんだから。』などと発言した。」

「その後、控訴人は、上記文書を提出せず、結局、自らの院生用研究室の割当てを受けられなかったことから、主に控訴人の指導を受ける学生(院生)は、Jが使用していた院生用研究室を使用していた。」

(中略)

「控訴人は、准教授に昇進するに伴って必要な院生用研究室の割当てを受けず、F(当時建築学専攻長)に対して院生用研究室の割当てを要求しても、Fは、これを拒絶した上、建築学専攻内で調整又は審議することも拒絶したなどと主張する。」

「認定事実・・・のとおり、控訴人が准教授に昇進した当時、建築学専攻において、教員に対する院生用研究室の割当てに関する内規等はなく、運用上、かねてより各系ごとに院生用研究室が割り当てられていたものであり(その割当ては、各系の研究分野の特色等を理由に、教員一人当たりの面積としてみると、各系間で相当程度の較差があった。)、控訴人は、准教授に昇進した後、その強い希望、要求にもかかわらず、被控訴人大学から自らの院生用研究室の割当てを受けられなかったものである。」

大学院生が充実した研究活動を行い、研究成果を上げるためには、落ち着いて研究活動を行うための研究室が必要であるところ、大学教員にとって、自らが教育指導する大学院生の研究環境を整えてやることは、その責務であり、自らが教育指導する大学院生のための院生用研究室の割当てを受けられなければ、上記の教員としての責務を果たすことができないことになってしまうのである。そして、院生用研究室が、他の教員と異なって割り当てられていない教員には、大学院生にとって、他の教員の下で研究するよりも研究環境が悪いということになり、優秀な大学院生が集まりにくくなるから、優秀な後進を育てるという大学教員にとって本質的な部分において、劣悪な状態に置かれているということになるし、自らの研究に対する補助という面でも、優秀な大学院生による補助を受けられないことになるから、研究者という面での影響も無視することができないものである。また、控訴人の指導を受けている大学院生としても、他の研究室を事実上借用させてもらっている状態で、他の大学院生と比べて劣悪な環境に置かれ、差別を受けていることになり、その意味でも、控訴人は精神的苦痛を受けることになるというべきである。

このように、院生用研究室は、准教授である控訴人にとって、教育研究活動上、極めて必要性及び重要性が高い設備であるから、他の教員と同様にその割当てを受けることが強く保障されるべきであり、Fは、建築学専攻長として、事実上のものにすぎない上記運用を硬直的に維持するのではなく、控訴人の要求に対し、割当ての必要性や是非等につき、各系間の較差の是非等を含め、少なくとも建築学専攻内で十分に検討すべきであったと解されるし、教育研究機関としての本質に関わる事項であるから、工学研究科全体の問題として検討することも必要であったと解される(なお、そのような十分な検討が行われた場合の結果については、控訴人においても、仮にそれが十分に満足のいく内容でなかったとしても、場合により受け入れなければならないこともあり得るであろう。)。それにもかかわらず、Fは、上記運用を漫然と踏襲し、その一存で、控訴人に対する院生用研究室の割当てを必要のないものと一蹴して、上記のような検討の手続を採ろうともしなかったのである。

これらの説示に照らせば、Fの上記対応は、控訴人の准教授としての教育研究活動に対する配慮を著しく欠いたものであり、就労に関わる事項において控訴人の意に反する不適切な言動により控訴人に不利益を与えたものとして、控訴人に対するハラスメントに当たるものと評価するのが相当であり、社会的にも著しく不相当であって、不法行為を構成し、国家賠償法1条1項の適用上、違法なものといわざるを得ない。

「これに対し、被控訴人は、控訴人が合理的理由なく院生用研究室の割当てを求めたのであるから、これに応じなかったFの対応は違法でない旨主張する。しかし、被控訴人の上記主張は、前記・・・の運用を所与の前提としたものというべきであるから、前記・・・の認定及び判断のとおり理由がない。」

「なお、Fは、原審における証人尋問で、控訴人以外に控訴人のように院生用研究室の割当てを要求した教員はいなかった旨証言し・・・、被控訴人は、同旨の記載がある建築学専攻教授等の陳述書・・・を複数提出する。しかし、仮にそうであったとしても、上記運用が事実上のものにすぎない以上、不可侵のものとしてこれに拘束されなければならないものではないことは明らかであって、前記・・・の認定及び判断を左右しない。」

3.自分の研究室でなくても問題にできる

 大学教員に対し、研究室が割り当てられないことは比較的問題にしやすいように思います。しかし、自分の研究室ではなく、自分が教育指導する院生用の研究室の割当てが受けられないことまで違法だと踏み込んだことは、画期的な判断だと思います。

 優秀な後進を育てることや、優秀な大学院生による補助を受けることを重要な価値だと位置付けたことも優れた判断といえ、大学教員の方の労働問題に取り組むにあたり、実務上参考になります。