私立学校教諭の懲戒処分の処分量定の軽重を論じるにあたり、公立学校で用いられている標準的な処分量定が参考とされた例

1.懲戒処分の処分量定をどう争うか?

 労働契約法15条は、

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」

と規定しています。

 やったことに対して懲戒処分の処分量定が重すぎる場合、そのような懲戒処分は、

客観的に合理的な理由に欠ける、

社会通念上相当であると認められない、

ものとして、その効力を否定されます。

 問題は、懲戒処分が重すぎるかどうかが、どのように判断されるのかです。

 企業で参考になりそうな処分実例があれば、それとの対比によって議論すれば良いのですが、そういった指標がない場合にはどうすれば良いのでしょうか?

 何もなければ直観的に軽重を議論するしかありません。しかし、法的な議論をして行くにあたっては、何某かの手掛かりが欲しいところです。

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたって参考になる裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令6.7.23労働判例ジャーナル155-48 学校法人武蔵野大学事件です。

2.学校法人武蔵野大学事件

 本件で被告になったのは、E中学校及びF高等学院(あわせて本件学校)を運営する学校法人です。

 原告になったのは、本件学校の教諭(学年主任)の方です。

「妻帯者であるにもかかわらず、独身で23歳のH(非常勤講師 括弧内筆者)に対し、執拗に食事の誘いやプライベート写真の送付を求め、Hに不快な思いをさせ、Hが退職せざるを得ない状況を招いた」

「原告は、Hから、本件学校の在職中にキャバクラで働き始めたことを聞いたにもかかわらず、被告に報告しなかった」

という二つの事由で減給処分とされたことを受け、その効力を争い、慰謝料や未払賃金の支払を請求したのが本件です。

 裁判所は、二つ目の事由が懲戒事由に該当することを否定したうえ、次のとおり述べて、処分量定に問題はないと判示し、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「原告は、Hを連れてガールズバーに行き、Hの前で現金を支払って女性の下着を見せるというサービスを受け・・・、その後も、Hに対し同じガールズバーに行くことを誘ったり、食事に誘ったりした・・・というのであり、Hは、これらの原告の行為を苦痛に感じていること・・・、原告が本件学校の学年主任であり、非常勤講師であるHとは本件学校内における立場に大きな違いがあることも考慮すると、原告の上記行為はHに対するハラスメントに当たり、就業規則53条19号の服務心得に反するものとして、57条1号、8号及び12号の懲戒事由に該当するというべきである。」

「他方、原告は、令和4年10月15日の聞き取り調査の際、本件学校の学園長らに対し、同年9月5日にHからキャバクラで働き始めたという話を聞いた旨述べたことが認められる・・・が、Hがキャバクラで働き始めたことの真偽は不明である上、原告が本件学校の学年主任であることから直ちに、Hの副業に関する事項を被告に報告する義務があると認めることは困難であるから、原告がHからキャバクラで働き始めたことを聞いた旨被告に報告しなかったことをもって、就業規則57条13号の懲戒事由に該当するとはいえない。」

(中略)

「原告は、本件懲戒減給処分は前提事実を欠いており、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとはいえず、被告の懲戒権が濫用されたものとして無効である旨主張する。」

「しかしながら、前記・・・で説示したとおり、原告のHに対する行為については、Hに対するハラスメントとして就業規則53条19号の服務心得に反し、57条1号、8号及び12号の懲戒事由に該当するのであり、前提事実を欠いているとはいえない。また、本件懲戒減給処分は、令和5年4月分のみの減給であり、その額も7649円にとどまる・・・ほか、東京都教育委員会が公表している『教職員の主な非行に対する標準的な処分量定』では、同僚職員に対し『相手の意に反することを知りながら、性的な言動を行った場合』の処分量定は停職又は減給とされ、『職場等において性的な冗談・からかい、食事、デートへの執拗な誘い、性的羞恥心を害するような言動等を行った場合』の処分量定は減給又は戒告とされており・・・、この標準的な処分量定に照らし、本件懲戒減給処分は量定上も相当と認められる。」

「したがって、本件懲戒減給処分をもって被告の懲戒権が濫用されたものとはいえず、原告の上記主張は理由がない。」

3.私立学校と公立学校は別物ではあるが・・・

 公立学校の教師の場合、教育委員会が懲戒処分の標準例を設けているのが普通です。東京都でも「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」は公表されています。

教職員の主な非行に対する標準的な処分量定|服務|東京都教育委員会

 私立学校と公立学校は別物であり(別物だからこそ私立学校に存在意義があるといえます)、懲戒処分の処分量定の相場観も、必ずしも一致させなければならないわけではありませんが、私立学校においても懲戒処分の軽重を論じるにあたり、都道府県教育委員会が定めている標準例が参考にされたことは、実務上参考になります。