解約留保権の行使期間-試用期間終了後の留保解約権行使は認められないとされた例

1.試用期間の勤務状況を評価したうえでなされる解雇(留保解約権行使)

 労働者の採用にあたって、入社後の一定期間を試用期間とし、その間に労働させる中で適性を評価して本採用するかどうかを決定している会社は少なくありません(第二東京弁護士会労働問題検討委員会『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、2023年改訂版、令5〕66頁参照)。

 それでは、会社側が試用期間の勤務状況を見て解雇権(留保解約権)を行使する場合、解雇権(留保解約権)行使の意思表示は、何時の時点で行う必要があるのでしょうか? 試用期間満了前に行う必要があるのでしょうか? それとも、試用期間が経過した後も、それほど時間が経っていない状態であれば、解雇権(留保解約権)を行使することは可能なのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、横浜地判令6.3.27労働経済判例速報2559-20医薬品製造販売業A社事件です。

2.医薬品製造販売業A社事件

 本件で被告になったのは、医薬品の製造販売等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告に採用され、研究開発部の所属とされた方です。被告からこの方に交付された採用内定通知書には「試用期間 入社日より6か月間」と書かれていました。

 本件の原告は、

令和3年7月12日入社

令和4年1月24日、被告による試用期間延長通知書の交付、

令和4年3月30日、被告による解雇予告通知書の交付

令和4年4月30日、解雇

という事実関係のもと、解雇の効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起しました。

 本件では試用期間延長の効力が問題になりました。試用期間延長通知書が交付された時点で、6か月が経過していたのであるから、試用期間の延長は無効ではないかというのが原告の主張の骨子です。

 就業規則には、

「採否は6か月の試用を経て決定する。但し、経験者は試用を命じないことがある。」

「使用中の者で適性を欠くと認められる場合は、解雇することがある。」

と規定されていました。

 このような事実関係のもと、裁判所は、次のとおり述べて、留保解約権行使の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「試用期間付きの労働契約とは、使用者側が、試用期間中に当該労働者が従業員として不適格であると判断したときには、労働契約を解約できる旨の解約権が留保された雇用契約であり、この場合の試用期間とは、留保された解約権の行使が可能な期間を意味し、試用期間が経過した後は、使用者は解約権を行使することができなくなるものと解される。使用者が、留保解約権を行使しないまま、試用期間を経過させることを、一般に本採用と呼称することがあるが、本採用時に新たな契約の締結や、意思表示は必要とされていない。」

「このような試用期間についての一般的な解釈を前提とすると、本件雇用契約で留保された解約権は、試用期間が経過した時点で行使することができなくなり、特にこれと異なる合意がある等特段の事情がある場合を除き、その後の試用期間の延長も許されないというべきである。」

「この点、被告は、就業規則7条3項が『採否は6か月の試用を経て決定する。』と定めていることをもって、本採用は6か月間が経過した後に決定できる旨主張しているが、かえって、同条4項は、『使用中の者で適性を欠くと認められる場合は、解雇することがある。』として、留保解約権の行使は、試用期間中に行うことを定めている。これを踏まえれば、同条3項は、入社後6か月の試用期間の経過をみて、試用期間中にその適正を判断する趣旨であり、試用期間が終了した後に判断をするとの趣旨の規程ではないと解するのが相当であって、これに反する被告の解釈は、前記試用期間の法的性質に反するもので、就業規則の合理的意思解釈として採用し得ない。」

「また、被告は、就業規則上定められている試用期間は、6か月よりも長い旨主張しているが、同条3項が試用期間を6か月としていることは、その文言からも明らかであって、これについての被告の主張も採用し難い。」

「そのほか、被告は、試用期間を雇用契約から6か月が経過した日の翌月の1日を試用期間の終期とし、本採用の日とする旨の慣行があったと主張しているが、被告が提出する『正社員に登用する。』旨の人事異動通知・・・は、いずれも被告における人事異動の発令が、毎月1日付けで行われることが多かったことを示すに留まり、試用期間の終期(すなわち留保解約権の行使期限)について、雇用契約の内容をなすほどの慣行が、被告とその従業員との間にあったと認めるに足りる証拠はない。」

「また、仮に試用期間を6か月よりも長い期間であるとする労使慣行ないし就業規則の定めがあったとしても、それは、労働契約上定められた6か月という試用期間の定めよりも労働者に不利益なものであって、労働契約法7条ただし書、12条により、個別労働契約が優先され、その効力を有しない。」

「そのほか、6か月よりも長い試用期間が合意されたであるとか、試用期間経過前に、試用期間の延長が合意された等、特段の事情といえるような、労働契約の定めと異なる合意があったと認めるに足りる証拠はない。」

「以上によれば、本件雇用契約の試用期間は6か月であって、令和4年1月11日の経過をもって、被告の留保解約権は、その行使ができなくなったものというべきであるから、その後に行われた本件試用期間延長措置は効力を有しない。」

3.就業規則の文言にもよるのだろうが・・・

 就業規則の文言にもよるのでしょうが、裁判所は、

試用期間の経過 即、留保解約権行使の否定、

というように、留保解約権の行使は試用期間内になされなければならないというルールを厳格に理解しているように思われます。

 試用期間経過後、留保解約権が行使されるという事案は、それほど多くはないようにも思いますが、裁判所の判断は、実務上参考になります。