家賃手当が割増賃金(残業代)の基礎賃金に含まれるとされた例

1.割増賃金(残業代)の計算方法

 割増賃金(残業代)は、

通常の労働時間の賃金の計算額×割増率

によって計算されます。

 通常の労働時間の賃金は、

時間単価×時間外労働等の時間数

によって表されます。

 時間単価は、月給制の場合、

月によって定められた賃金÷1年間における月平均所定労働時間数

で導かれます(以上、亀田康次ほか『詳解 賃金関係法務』〔商事法務、初版、令6〕257-258頁参照)。

 時間単価を計算するにあたり分子となる賃金には、これに参入されない「除外賃金」と呼ばれるものが存在します。

 除外賃金は、

「割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない」

と規定する労働基準法37条5項を根拠とするもので、現状、

家族手当

通勤手当

別居手当

子女教育手当

住宅手当

臨時に支払われた賃金

1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

の七種類が該当します(労働基準法施行規則21条参照)。

 この除外賃金との関係で、近時公刊された判例集に「家賃手当」が「住宅手当」に該当しないと判断された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令5.10.6労働経済判例速報2558-27 ゆうしん事件です。

2.ゆうしん事件

 本件はいわゆる残業代請求訴訟です。

 本件で被告になったのは、骨折院・整骨院・鍼灸院の運営等を業とする株式会社である。

 原告になったのは、被告において柔道整復師として働いていた方です。

 本件では残業代の基礎賃金との関係で、実際の住居費とは無関係に定額で支給されていた「家賃手当」の除外賃金該当性が問題になりました。

 この論点について、裁判所は、次のとおり述べて、家賃手当は除外賃金である「住宅手当」には該当しないと判示しました。

(裁判所の判断)

「労基法37条5項は、割増賃金の算定基礎賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は参入しない旨定めるところ、その趣旨は、労働者の個人的事情に基づいて支給される賃金を割増賃金の算定基礎賃金から除外するものと解される。このような趣旨に鑑みれば、労基法施行規則21条において算定基礎賃金から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものと解するべきである。」

「そこで検討するに、・・・給与規程16条は、住宅手当として、住宅ローン又は家賃支払額に応じて1万円、1万5000円又は2万円を支給する旨定め、令和2年7月に制定された・・・給与規程は、家賃手当の上限を1万円と定めているところ、原告は、こうした給与規程の定めがある中、入社時から2万円の家賃手当の支給を受けている。また被告は、原告が入社時に実家に住んでいたこと・・・をもって、原告が不正に家賃手当を受給していたと主張するが、原告が上記の各給与規程に基づき原告の家賃手当の支給要件及び金額をどのように判断したのかは明らかにしていない。」

「そして原告は、訴外Aから被告に入社する際、訴外Aから家賃手当として支給を受けていた2万円を引き続き支給されることで被告と合意した旨供述するところ・・・、原告が勤務場所を変更しないまま被告と雇用契約を締結したことからすれば、原告の供述は合理性を有するというべきである。

以上によれば、被告は、原告との合意に基づき、実際の住宅費とは無関係に家賃手当2万円を支給していた可能性が高く、そうすると本件の家賃手当は、住宅に要する費用に応じて算定された住宅手当であるとは認めるに足りないから、労基法37条5項に基づいて割増賃金の算定の基礎となる賃金から除外されると認めることはできない。

3.住宅手当っぽい賃金項目について検討を忘れないこと

 労働基準法施行規則21条で

「住宅手当」

が明文で除外賃金とされている関係で、家賃的な手当を見ると、それだけで算定基礎賃金から除外してしまう人がいます。

 しかし、家賃的な名称の手当であるからといって、直ちに残業代の基礎賃金に含まれないわけではありません。住宅手当に関しては、解釈例規があり、

「割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいう」

「本条の住宅手当に当たらない例」

「住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの」

といったことが規定されています(平11.3.31基発170号)。

 本件のように就業規則では段階的な形(費用に応じた形)になっていたとしても、何らかの経緯のもと、家賃とは無関係に一定金額が支給されている例は決してなくはありません。

 漏れなく請求して行くためには解釈例規まで含めた細かな知識が必要になることからも、残業代の請求は、労働事件を専門にしている弁護士・法律事務所に依頼することがお勧めです。もちろん、当事務所にご相談頂いても構いません。