公務員の死亡逸失利益-67歳まで同一の基礎収入(同等・上位にあった行政職員の給与平均額)が用いられた例

1.逸失利益を計算するうえでの労働能力喪失期間の終期

 事故や事件で死亡したり、後遺障害が残ったりした場合、被害者は、加害者に対し、減収分に対応する逸失利益の賠償を請求することができます。

 この場合、就労による逸失利益の終期をどこで画するのかという問題が生じます。人は余命が尽きるまで働き続けることができるわけではないからです。

 裁判実務上、労働能力喪失期間の終期は一般的に67歳であるとされています((大島眞一『交通事故事件の実務-裁判官の視点-』〔新日本法規出版、初版、令2〕75-76頁参照)。

 ここで一つ問題があります。それは労働能力期間喪失の終期(就労可能年数)までの間、同一の基礎収入を用いることができるのかという問題です。

 人の収入には変化があります。概ねの人の賃金は、年齢が上がるとともに上昇して行き、やがて頭打ちになり、役職定年等で緩やかに下降し、定年後再雇用でガクンと減り、高年齢者雇用安定法上の高年齢者雇用確保措置が切れる65歳を迎えてゼロになります。死亡逸失利益や後遺症逸失利益を計算するうえでも、こうした賃金の推移が反映されないのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題との関係で、67歳まで同一の基礎収入を用いて逸失利益を計算した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、札幌地裁令6.2.6労働経済判例速報2547-27 雄竹町事件です。

2.雄竹町事件

 本件で被告になったのは、普通地方公共団体です。

 原告になったのは、精神疾患を発症して自死した被告職員の遺族です。取消訴訟を経て被災者の自死が公務災害であることが認定された後、労災(公務災害)民訴を提起したのが本件です。

 本件では死亡当時45歳であった被災者の逸失利益が問題になりましたが、基礎収入の認定の仕方が争点になりました。具体的に言うと、原告は定年前後で基礎収入を区別すべきではないと主張したのに対し、被告は定年前後で基礎収入を区別すべきだと主張しました。

 裁判所は、次のとおり述べて、定年前後で基礎収入を区別することなく、逸失利益を計算しました。

(裁判所の判断)

「逸失利益は、将来の長期間にわたって取得することが想定される収入を基礎とするものであるから、客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収入の額を算出することができる場合には、その限度で損害の発生を認めるべきである。」

「平成27年12月9日の死亡当時、被災者の職務の級及び号俸は4級65号俸であったところ、被災者に予定されていた昇給の見込みを具体的に認定することは困難であるものの、普通地方公共団体の行政職員という職務の性質に加え、被災者の従前の昇給の経過からしてその勤務成績が良好であったと評価できること・・・、・・・に照らすと、被災者死亡当時、被告において被災者と同等又はより上位にあった行政職員の給与の平均額である738万1574円を被災者の基礎収入とすることは合理的であり、相当と認められる。」

「被災者が、死亡当時、妻である原告A並びに子2名(原告C及び原告D)を扶養していたことは当事者間に争いがないところ、子2名は当時19歳と16歳であり(甲1)、その後被災者に扶養される期間は長くはなかったと推認されるから、生活費控除率を40%とするのが相当である。」

「就労可能年数は、死亡当時の年齢である45歳から67歳までの22年間であり、当該期間に対応するライプニッツ係数は13.1630である。」

「したがって、被災者の逸失利益は、次の計算式のとおり算出される。

(計算式)

738万1574円×(1-0.4)×13.1630≒5829万8195円」

なお、被災者の死亡当時、被告における定年は60歳と定められていたが(令和3年法律第63号による改正前の地方公務員法28条の2第2項、同年法 律第61号による改正前の国家公務員法81条の2第2項参照)、これら改正により被告における定年が令和13年4月1日までに段階的に65歳まで引き上げられること(上記改正後の地方公務員法28条の6第2項、附則21項、上記改正後の国家公務員法81条の6第2項、附則8条参照)、原告らにおいて被災者が定年まで勤続した場合の退職金の増額分を逸失利益として主張していないことに照らすと、退職の前後を問わず上記基礎収入により逸失利益を算出するのが相当である。

3.定年・定年後再任用・退職が無視された

 以上のとおり、裁判所は、定年引上げや退職金の増額分が逸失利益として計上されていないことなどに触れたうえ、定年・定年後再任用・退職を無視し、同一の基礎収入を用いて逸失利益を計算しました。

 損害についての原則的な考え方である差額説に立って考えると、賃金・俸給の推移を逸失利益計算にあたり考慮すべきであるという主張には一定の説得力がありますが、これを排し、しかも死亡時よりも高い基礎収入で逸失利益を計算したところに事案としての特性があります。

 定年や定年後再雇用(再任用)、二度目の定年による退職等の事実を考慮して逸失利益を計算すべきだとして、損害を削りにかかってくる使用者側に反論して行くにあたり、本裁判例は、実務上参考になります。