特定の仕事を割り振らないこと(配車差別)に違法性が認められた事例

1.特定の仕事の割り振りを受けられないことを問題にできるか?

 自分にだけ時間外勤務手当等が発生する残業をさせてくれない、特定の手当と紐付いた仕事を割り振ってくれない、といった相談を寄せられることがあります。

 しかし、多くの場合、これを法的に問題にすることは困難です。「通説的な見解は、労働者の就労請求権(使用者からみると労働受領義務)を一般的に肯定することは困難であるとし、労働委員会命令など明確な法的根拠がない限り使用者による不当な就労拒否が労働者の就労の利益を侵害する不法行為として損害賠償責任を発生させるにすぎないと解している」からです(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第2版、令3〕252頁参照)。

 そのため、

「もとより、労働者が使用者に対して残業をさせるよう求める権利があるということはできず、被告が原告の残業を許可しなかったこと自体が直ちに違法であるということはできないが、被告は、他の従業員に対しては必要に応じ残業を許可しながら、原告に対しては同様の状況にあっても合理的な理由なく許可をしなかったものといわざるを得ず、このことは、不合理な差別的取扱いにより原告に精神的苦痛を与えるものであったというべきである。」

などと残業の不許可を違法だと判示した裁判例も無くはないのですが(広島地判令3.8.30労働判例ジャーナル118-38 広島精研工業事件参照)、それほど数多く把握されているわけではありません。

残業を許可しないことがハラスメント(安全配慮義務違反)とされた例 – 弁護士 師子角允彬のブログ

 このような状況のもと、近時公刊された判例集に、出張手当や早出手当のつく配車をしなくなった取扱を違法だと判示した裁判例が掲載されていました。横浜地判令5.3.3労働判例1304-5 向島運送ほか事件です。

2.向島運送ほか事件

 本件で被告になったのは、

一般貨物自動車運送等を目的とする株式会社(被告会社)

被告会社のA営業所配車係として、原告を含む運転手に対するトラック・トレーラーの配車を行っていた方(被告Y1)

の2名です。

 原告になったのは、被告会社で、牽引運転手う(トレーラーを牽引するトラクターの運転手)として働いている方です。出張手当や早出手当の付く配車を受けられなくなったのは不当な差別であるなどと主張して、損害賠償を請求する訴えを提起したのが本件です。

 これに対し、被告らは、原告が配車を受けられなくなったこと(本件処遇)は、配車係の指示に従わなかったからだと反論しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、本件処遇に違法性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告会社において、運転手への配車は、配車係の権限であり、その合理的な裁量に委ねられているものと考えられるところ・・・、被告らは、前記・・・のとおり、本件処遇をした理由として、原告が24時降りに協力せず、早朝出荷の際にFAXの確認や連絡を怠るなどし、配車係の指示に従わなかった旨主張し、これに加えて、原告が、令和元年12月3日における被告Y1との電話のやり取りにおいて、配庫係の指示に従わなかったという事情を考慮したことが認められる・・・。」

「しかし、原告が24時降りをしなかったとして指摘されているのは、平成30年2月5日及び令和元年6月3日の2回にとどまり、本件処遇とは6か月以上の隔たりがある出来事である。また、原告は、その認識するところによれば、被告からの指示やパーキングエリア等の駐車状況から24時降りをしなかったものであり、意図的に24時降りをしなかったとは認められない。そして、被告Y1及びAにおいて、24時降りをしなかったことについて、原告に対し、その問題点を指摘し、改善を促すための注意、指導を行っていない・・・。」

「また、早朝出荷についても、令和元年12月3日の1回の出来事であり、同日の電話において、被告Y1がFAXの確認や連絡について指摘したことは認められるものの、電話を替わったAにおいて、出荷時の作業内容について注意をしておらず、電話を替わる前の被告Y1への発言や態度についても注意をしていない・・・。このように、早朝出荷や配車係への発言や態度についても、被告Y1及びAは、原告に対し、その問題点を指摘し、改善を促すための注意、指導を行っていない。」

「さらに、令和2年2月28日の会談において、休憩の際、被告Y1は原告の発言や態度を理由に配車をしない旨発言し、Aはこれに同感である旨の回答をしている。仮に、勤務態度の一要素として、上司等への接し方を考慮して配車を指示することがあったとしても、被告Y1及びAが、原告に対し、日頃の発言や態度について具体的に注意、指導し、改善を促したとまでは認められない。」

「このように、24時降り及び早朝出荷に関する原告の言動や、被告Y1及びAが対応した状況に鑑みると、被告Y1及びAにおいて、原告に対し、具体的な注意、指導の機会を設けることなく、本件処遇をするほどの業務上の必要があったとは認め難い。」

「他方で、原告は、事前に、収入が減少するおそれがある旨の注意や警告を受ける機会を付与されないまま、突然、本件処遇を受け、令和元年12月以降、期限の定めのないまま、長期間にわたり、出張等配車がされない状態が継続した。令和元年11月までの原告の賃金額やこれに含まれる出張手当及び早出手当の額・・・を考慮すると、減収の額は減給処分を受けた場合よりも大きくなっており、原告は、著しい不利益を被っているものと認められる。」

これらの事情を考慮すると、運転手への配車が配車係の裁量に委ねられていることを考慮しても、本件処遇は、合理的な裁量の範囲を逸脱した違法なものというべきである。

「したがって、被告Y1は、原告に対し、不法行為による損害賠償責任を負い、被告Y1は、その事業の執行について、本件処遇をしたことから、被告会社は、原告に対し、使用者責任による損害賠償責任を負う。」

(※.24時降り=高速道路上のサービスエリア等において24時まで駐車して待機した後、高速道路を降りることにより、高速道路代が割引となり、節約することができることを意味する)

3.特定仕事の割り振りをしないことが違法とされた珍しい例

 以上のとおり、裁判所は、早出手当や出張手当の付く配車をほとんどしなくなったことに違法性を認めました。

 就労請求権が原則として否定されている関係で、裁判所の判断は画期的なものだと思います。本件は、仕事の割り振りにとの関係で、不当に差別されている人の救済を図って行くにあたり、実務上参考になります。